レインボーミカ十番勝負!
〜その男、ネイティブにつき〜




 そう。
 全く以って、だだっ広い大平原なのである。
 幾つかの巨岩が点在しているが、それとてこの広大な場所にあっては、ほんのちょっとしたアクセントに過ぎない。
 
「うひぃぃぃ」

 間の抜けた声が、平原に響いた。

「むちゃくちゃ広いッスぅぅぅ〜〜〜〜〜」

 キーの高いハスキーボイスだが、丹田から発されているような大音声である。
 何もない場所なのに、エコーが返ってくる錯覚すら覚える。
 そこには、実にこの場に不似合いな人物がいた。
 くたびれたジーンズや、古びた革ジャンはまだいい。手にした巨大なバッグもそれほど違和感は無い。
 しかし。
 その人物の髪は長く、やや不自然な金色の色彩を放っている。肌の色はモンゴロイド特有の、薄く桃色がかったイエロー。おそらく、髪は染めているのであろう。
 彼女……そう、女だ……はややぽってりとした肉厚な唇をいっぱいに開け、眼前の広がる雄大な光景に感嘆の声を惜しまない。そして、スカイブルーのマスクから覗く、好奇心に溢れた大きな目。
 ………マスクから、覗く目だ。


 マスク。

 彼女は、どういうわけか目の周りを覆う、青いマスクをしていた。
 自然の色彩が溢れるこの場所にあって、明らかに人工物然とした蒼さは目立つ。
 彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、手にした写真と見比べている。その写真に写るのは、裸の上半身にGジャン姿の巨漢。
 見たところ、まだ若い彼女は人捜しの様子である。
 一体こんな場所で、誰を探しているというのか。

「でも、こんな広いとこで対戦相手なんて見つかるのかな」

 案の定、彼女はちょっと弱気になる。
 軽く、溜め息をついた。その瞬間である。
 少女の目の前に、赤いパンツを穿いた傷だらけの巨漢の姿が現れた。逆三角形の極限まで鍛え上げられた肉体に、また逆三角形の胸毛がまぶしい。前触れも何もない。突然出現したのである。

「おい、お嬢ちゃん。なにをくよくよしているんだ。それじゃあお前がストリートにいた悪ガキだった頃と何も変わらないぜ?」

 はっと顔を上げた少女の顔が、劇的なまでの変化を見せた。
 浮かない表情から、きらきらと輝く安堵の笑顔に。そして彼女は叫ぶ。男の名を呼ぶ。

「ザッ、ザンギエフ様!!」 

 そう、その男こそ、世界最強のプロレスラー。あまりに強すぎるが故に対戦相手がいなくなってしまったという、ロシアが誇る英雄。人呼んで、ロシアの赤きサイクロン。その名もザンギエフ!!

「いいかい、お嬢ちゃん! プロレスラーってのはな」

 そう言って、ぐぅんと背中を逸らした。人差し指を立ててウィンクする。


「世界で一番つぇぇ奴のことを言うんだぜ!!」

 ………現状を解決するに於いて、何の方策にもならない事を轟然と言い放った。
 ところが少女の反応はまたまた劇的である。瞳をきらきらと輝かせると、

「うん、ミカ、もう迷わないッス!! ありがとうザンギエフ様!」

 合掌しながら天を振り仰いだ。なんだか、彼等の周囲だけが演劇の舞台と化したかのようだった。
 対するロシアの巨人は、びっ! と親指を立てて見せると、髭面に凄まじく男臭い笑みを浮かべて、高らかにこう言った。

「ハラショー」

 ミカ、という少女にだけ見える魔法の妖精(?)は、満足げな笑みを浮かべつつその姿を消す。
 ミカはドキドキする胸をなでおろすと、大きく息を吸い込んだ。そして、ぱぁん! と自分の両頬を思いっきり張った。

「っしゃぁ! 気合が入ったッス!」

 本人が満足そうだから、あえて何も言うまい。
 すっかり元気を取り戻した彼女は、目の前に広がる大平原へと再び一歩を踏み出したのである。
 そのときだった。

「ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 通りかかった巨大な岸壁の上、見上げるような上空から、一塊になった何かが落下して来たのである。腹に響くような雄叫びを上げながら、巨大な物を握り締めた……人だ。
 握り締められたもののシルエットは明らかに人型。その頭部である。もがく事もできず、一目で巨漢だとわかる筋肉質のタンクトップ姿が、右腕一本で振り回されている。

「どひぃぃぃぃっ!」

 ずずんっ! と腹に響く音を立てて、巨漢の体が大地に叩き付けられた。黒人。ボクサーグローブをはめた、人相の悪い男である。
 ミカから指一本隔てた程度の距離で、もうもうと土煙が上がった。
 少女は、頬を引きつらせながら強張った笑みを浮かべる。

「え……えへへ、見つけちゃった」

 土煙から立ち上がったのは、大地に横たわるヘビー級ボクサーよりも、なお一回り巨大な人影だった。
 破れたジージャンとジーンズ。赤銅色に焼けた、鋼の筋肉。
 巨人である。
 その形容がもっとも正しい。しかも、アングロサクソンでも黒人でもない。黄色人種、モンゴロイドの特徴を、その容貌は留めている。
 そしてこの地は…………アメリカ合衆国。
 頭部に挟み込んだ一本の羽が、乾いた風に揺れる。

「い……いんでぃあんッスか」

「正しくは、ネイティブ・アメリカンだ」

 ミカが呟いた言葉を、巨人がやんわりと訂正した。
 先程、見上げるほどの高度から巨漢のボクサーを叩き落した男とは思えない程の、優しい光を宿した瞳がミカを見下ろしている。二人の身長差は、高さにして頭二つ分はあろうか。

「……君は、中国人か?」

「日本人ッス」

「何用か?」

 正直な所、ミカは非常に緊張していた。ガチガチである。敬愛する世界的プロレスラー、ザンギエフに近づくため、そして彼女が所属する団体のプロモーションも兼ねてストリートファイト修行を始めたばかりなのである。
 ストリートファイターとしては駆け出しもいいところである。

 ……まずいぃぃ……。ムチャクチャ緊張するッスぅ……!

 と、そのとき、彼女の脳裏をとある男の面影が過ぎる。
 蛍光ピンクの道着に身を包み、ひっつめ髪の三白眼。その名も高き、火引弾。
 彼は鰯ヶ浜海水浴場特設リングにて、ミカにこう言ったものだった。

「例えばよ、ストリートファイトってのは、喧嘩みてーなもんだ。だとしたらぜってーに相手に舐められちゃいけねえ。相手を呑んで掛かるのが大事だ」

 もっともだと、ミカは肯いたものだった。

「そう、それよ! そこでオレはこの戦法を編み出した!! 相手の意表を突き、己のペースに誘い込む絶好の妙技!! うおぉぉぉぉぉぉっっっ!! ちょうはぁぁぁっつっ・でんせぇぇぇぇつっっっ!!

その後、ぴょんぴょん飛び跳ねながら奇声を連呼する弾を、ミカが唖然と見つめたのは言うまでもない。

 ……あれは、いやだ。

 とりあえず正攻法で行く事に決めたようで、立ち上がったミカの目は座っていた。
 すっと大きく息を吸うと、

「あたしと、ストリートファイトして欲しいッス!!」

 叫んだのである。




「よかろう。私の名は、サンダー・ホーク。君は?」

「ミカ! レインボー・ミカッス!! どぞ、ヨロシク!」

「私は女性と言えど、祖先に誓って手加減する事はできない。あの男を倒すまで負けるわけには行かないからだ。それでもいいかね?」

「上等ッス!」

 ミカは勢い良く、上着を脱ぎ捨てた。下からは、身体にフィットした蒼い水着が現れる。
 レインボー・ミカのリングコスチュームである。
 正直な所、膝頭が笑っていたが、今はそれを武者震いと断じてミカは眼前の巨人をキッと睨めつけた。
 ストリートファイトにゴングは無い。ミカは己の内で、闘争のゴングを鳴らさねばならないのだ。
 即座に覚悟を完了したミカは、高らかに打ち鳴らされる戦いの鐘の音を聞いたと思った。
 瞬間、ホークの巨体が眼前に迫っている。

「むぅぅんっ!」

 振り下ろされる、圧倒的質量のハンマーブロー。両手を組み合わせて放たれるその一撃には、何の技巧も凝らされてはいない。

 ……受けちゃ駄目だ!

 ミカは瞬時に判断を下し、大地に身を投げ出した。
 一拍おいてミカがいた地面を、打ち下ろされた大槌が抉り取った。
 転がりながら、ミカはホークの脚にショルダータックルをかける。女性とはいえ、その体格はプロレスラーとして鍛えぬかれている。成人男性を軽く吹き飛ばすような一撃が、ホークの足元を襲った。
 しかし。

 ………う……動かないっ!?

 化け物じみた重心である。

「ふむ!」

 伸ばされた手を避ける術は、ミカにはなかった。美香の頭を一掴みに、巨腕が持ち上がった。

「うむぅっ!」

 巨体が中空に跳ね上がる。
 2mを超える巨体が、まるでオリンピックの高飛びを見るかのような高度に到達。直後、重力に任せて落下した。
 最も下方にあるのは、ホークの拳。握り締められたのはミカの頭部である。
 次の瞬間、ミカの脳が強烈にシェイクされた。首を鍛えていない常人であれば、即死しても可笑しくない衝撃である。
 メキシカン・タイフーン。
 ホーク必殺の投げ技である。しかし、ミカはこれに耐えて見せた。必倒を確信したホークが、ホールドを弱めた瞬間、手の甲に肘を打ちつけてミカは束縛を外した。
 そして後転。つま先が着地した瞬間、立ち上がりきっていないホークの顎めがけ、ミカは思いっきり伸び上がる。それが、強烈な頭突きとなってもろにホークの顎部を直撃した。

「むはぁっ!!」

 さしもの巨人も、その肉体を傾がせる。
 ミカの胸の辺りまで頭が下がった。その好機をミカは見逃さない。

「うらぁぁぁ!!」

 巨魁な頭部をがっちりと脇に抱え込むと、ヘッドロックの体勢に入った。全膂力を込めて、万力の如く頭部を締め付ける。

「ぐっ!」

 巨腕がミカの手をがっちりと捕らえる。巨人の腕が、戒めを解くべく筋肉を盛り上がらせた。

「今だっ!!」

 ミカは、ヘッドロックに別のベクトルを与えた。締から、投へ。自らの体を重しに、強く前へと跳躍したのである。
 さしもの巨人の足元も、突然の技の変化に重心を保ちきれない。今度はホークの顎が、ミカにホールドされて大地に衝突する事になった。
 まさしく、非凡な格闘の才能をもった娘である。ホークは内心で、ふつふつと湧き上がる高揚感を押さえきれなかった。  ぐんっ、とミカの太腿よりもなお太い二の腕に、血管が浮かぶ。
 手を払った訳ではない。ただ力を込めただけだ。そんな単純な行為の前に、実に呆気なくミカのホールドが外れた。

「なっ!?」

 慌てて前転し、距離を置くミカ。ホークは悠然と大地から顔を上げると、立ち膝の姿勢のまま首を巡らした。
 ……立ち上がられたら……また不利になるッス!
 ミカの判断は、理性によるものでは無く動物的な勘だった。
 ミカは背後にそそり立つ岸壁を見据えると、突然全力疾走を始めた。

「!?」

 目を見張るホーク。少女の体が岸壁を駆け上がると、高さ3mほどの位置で壁面を蹴る。空中で反転しながら、ミカは両脚をそろえ、ホークに向けて飛び掛った。
 ドロップキック。
 プロレスにおける、空中殺法の代名詞のような技である。
 しかし、野外で行うためにこれほど不似合いな技は無い。必要な高度を取るには足場が悪いし、何より、技後は例外なく転倒姿勢になってしまうのである。
 だが、ミカはあえてこの技に賭けた。それは彼女が持つ、プロレスへの誇りがさせた行為であったかもしれない。
 狙いは正確。体重の充分乗った両足が、ホークめがけて飛来する。
 ……と、瞬間的にホークの体が接近したように見えた。

「違うッ! 自ら空へ飛び上がって!?」

 ミカの理解と同時に、ドロップキックの打点から遠く離れた位置、ミカの腰部に向けてホークの頭部が炸裂した。

「なっ……なんて跳躍力ッ!?」

 衝撃を受けながらも、プロレスラーとして鍛え上げられたミカの肉体は、驚異的タフネスで致命的なダメージを免れる。
 ミカは空中で身を捻ると、上手くホークの上昇をやり過ごした。ダメージは大した事は無い。むしろ、空中で体勢を立て直したミカが先に着地する分、有利といえよう。
 しかし、巨人の運動能力はミカの想像を遥かに超えていたのである。
 飛翔の頂点に達したかと思われた瞬間、ホークの巨体が驚くべき速度で反転した。

「フンッ……!!!」

 両腕を翼のように広げ、手近な岸壁を、凄まじい脚力で持って蹴り飛ばす。
 その一撃で、ホークの落下方向が変化する。速度も自由落下の比では無い。最早、飛翔と呼んでいいだろう。

「そんなん、ありッスかぁァァ!!」

 驚きと衝撃の余り、ほとんど笑い顔になってミカが絶叫。
 次いで衝撃。
 Uの字になってぶっ飛ばされた彼女の身体は、地べたにたたきつけられてバウンドした。
 ついでに綺麗に意識もぶっ飛んでしまう。

「あー、あはは、きれーなお星さまが見えるッスぅぅ〜」



 ミカ、一ラウンド目を落とす。




 意識無き彼女の脳裏で、再び闘神が蘇る。

「おいおい、ナニをへたばってんだぁお嬢ちゃん」

 野太く麗しきその声は、ミカが憧れてやまぬミスター・ザンギエフのものである。
 赤いパンツ一枚のその姿は、古傷だらけの上半身と相まって勇壮に夕陽に映える。
 正に筋肉の芸術。武器を捨てた誇り高き戦いの道を選択した一握りの人類が、悠久の時を経て生み出した戦う神の子。
 リング上で彼と見えたレスラーは、組み合った瞬間にギブアップを選択すると言う。それは彼の投げを喰らいたくないからだ。

「ザンギエフ様ぁ〜……やっぱ駄目ッスぅぅぅ〜。あの大巨人強すぎるッスよぉ! アンドレよりでかいんスよ!?」

「バカヤロウ!! ホッキョクグマよりも小さいだろうが!!」

 弱気な発言をしたミカの腰を、怒声をあげながらザンギエフが抱え込んだ。

「ザッ、ザンギエフ様!? この、この技はッ!!!!!」

 左様。
 これぞザンギエフを世界の頂点に押し上げた、究極の技。

「スクリューパイルドライバーッッッ!!! めちゃくちゃうれしいッスぅぅぅぅ!!」

 ミーハー丸出しで上空へ巻き上げられながら、ドップラー効果のある悲鳴をあげるミカ。
 遥か上空を飛翔しながら、ザンギエフは遠い目をする。

「見てみろお嬢ちゃん。あの地平線を」

「うわぁぁぁ、雄大な光景ッスね〜」

 青空と星空の間。
 ここは電離層であろうか。ミカは逆さまになって回転しながら、『地球』を見ていた。

「地球ってのは、でかいだろう! それに較べてお嬢ちゃん。お前はたかが2m30そこらの男に振り回される。……小せえ小せえ!! 地球をぶん投げることに較べりゃあ、人間なんてつまよーじみたいなもんだ!」

 それはそうだろう。地球と較べたらホークがかわいそうだ。
 しかしお世辞にも頭脳明晰とは言えないミカは。

「かんどーしたッス!!」

 目をうるうるさせて言ったのである。

「全くッス! ザンギエフ様のでっかさに較べたら、あいつなんてちっちゃいもんッス! きっとナニはもっとちっちゃいに違いないッス!」

 そこでミカ、ぽんと手を叩く。

「そう、ナニッスよ!」

 一体ナニを思いついたんだか。





 がばっとミカは起き上がった。

「むおっ!?」

 近づいて覗き込んでいたホークが、驚愕に目を見開く。
 それはそうだろう。必殺の一撃を食らわしたはずだと言うのに、よりによって女の身で呆気なく起き上がってきたのである。いや、理屈抜きに驚いただけというのが一番正しいかもしれない。

「決めたッス! も一回勝負するッスよ!」

「勝負? ……よかろう。何度でも相手をしよう」

 ホーク、気を取り直して立ち上がる。冷静そのものである。しかし、足元で座り込んだミカは目一杯頭を振った。

「違うッスよ! 勝負のやり方は色々あるッス! これは、あんたがどんなにでっかくても関係ない勝負ッス!」

「ほほぅ?」

 興味をそそられたのか、巨人が身を屈めた。

「なにかね、その勝負方法と言うのは……」

 その姿が一瞬無防備に、ミカの目には映った。

「今ッス!」

 伸ばした足をたわませると、ミカは一気に飛び掛る。
 この一撃を、ホークは足元を狙ったタックルと判断。しかし、その巨体と圧倒的膂力によって、グラウンドにも無類の強さを誇るホークである。
 故にミカの攻撃を躱すことなく、悠然と構えた。そこに、ホークの油断があった。
 ミカが組み付いたのは、ホークの足では無い。ジーンズの股間についた、チャックである。

「なっ!?」

 ミカの形の良い前歯が金具を噛み取ると、勢い良く頭を引き降ろした。当然、その動きに沿ってチャックは開放。
 唾液の糸を引いて唇を離すと、ミカは鼻先を、開放された社会の窓めがけて突っ込んだ。

 途端に、ミカの鼻腔を突く独特の臭いと、鼻面に感じる感触。

「むうう!」

 唸るホーク。ミカの鼻先に感じる柔らかな肉が、急激に固さを帯びていく。
 ミカ、ホークを見上げてにやりとほくそ笑む。

「勃ったッスね」

「こ、これが君の言う勝負の方法か!?」

「……逃げるッスか?」

 ジト目でミカ。なんか、すごくやらしい。
「馬鹿な! 祖先の誇りにかけて、私は逃げる事はしない! よかろう。この勝負受けて立とう!!」

 そうなってしまえば話は早い。ミカはホークの猛々しい肉の竿を加えると、ジーンズの中から引っ張り出した。

「ふわ……! でかぁ……!!」

 飛び出したモノは、凄まじい大きさである。正にホークの体格に相応しいビッグサイズ。ミカは目を丸くして溜め息をついた。

 ……これは、あたしマジでやばいかも……!

 一筋こめかみを汗が伝い落ちるが、ぶんぶんと頭を振って気を取り直す。
 ミカの前に道は残されていない。ホークと勝負をするためには、咥えねばならないのである。

「あ………んぅっ……!」

 いっぱいに口をあけて、亀頭だけを漸く咥えこむ。人よりは口が大きいと自負するミカだが、それでもホークの巨大な物は些か手に余る。
 精一杯に舌を動かして先端を刺激するが、どうしてもそれより先に舌を進めることができない。

「んぐぅぅ……」

 一端口を離して、間合いを置こうとしたミカだったが。
 これはホークからすれば戦いである。
 巨大な手の平がミカの頭を両脇から抱え込む。そして、ミカの唇めがけて力任せにナニを押し込んだ。

「むぐぅぅぅッ!?」

 入れようとすれば入るものである。
 ホークのモノは、とても無理と思われたミカの唇を呆気なく潜り、彼女の喉にぶち当たって、食道にその亀頭を潜り込ませた。
 凄まじい吐き気がミカを襲うが、口腔に詰まったこの物体、ちょっとやそっと出吐き出せるものでは無い。
 ミカの口腔が蠢く様がモノを刺激するのか、ホークは低くうめく。
 ガチガチの亀頭が少女の上顎を擦り上げ、前歯につっかえてから、再び喉へと突き込まれる。

「んぶぅぁぁッ!!」

 必死に頭を振り、モノから頭をもぎ離す。と、ホークが咆哮を上げた。堂々たるモノが反り返り、ミカの鼻面に叩き付けられる。
 先端から、ゲル状を超えて圧倒的実体感を感じさせる白い噴水が飛び出したのは、その時である。僅かにホークが腰を引いたためか、爆発的な量の放射は少女の鼻腔を直撃。鼻から、口からマグマじみたスペルマが侵入し、ミカは声にならない悲鳴をあげた。
 荒く息をつきながら、ホークは腰を落とした。
 漏れ出るゲルの量は流石に弱まり、断続的に吹き上がるばかりである。なんとか鼻腔に侵入した精汁を、あまり上品とはいえない方法で追い出すと、

「ふんっ!」び―――!!

「……仮にも婦女子が、片手で手鼻をかむのはどうかと思うが」

「う、うっさいッス!」

 勢い良く飛び上がった。

「勝負はまだまだッスよ!! 行くッス!」

 しっかりと体を束縛する水着をはだけると、肉付きのいい肢体が顕になる。思いの他、まろび出た一対の肉の丘は大きく、ホークは目を見開いた。
 普段は外気に晒されない部分は、そこだけが白く、鮮やかに映える。

「うりゃあ」

 ホークの前にかがみこむと、ミカはその豊かな谷間に、未だ天を突く堂々たるモノを挟み込んだ。
 モノの周囲を覆う、多量の先走り液が乳房の間の滑りを良くし、しっかりと締め上げたミカの二の腕が、一対の肉丘を擬似的な女性器に変える。
 ミカが体を伸び上がらせると、マシュマロじみた柔らかさの中をモノが滑り落ちていく。凄まじい太さのそれを挟み込んでなお、少女の乳房には余りがある。
 完全に包み込まれたホークは、先刻出したばかりだと言うのに、湧き上がってくる放精への欲求に戸惑う。
 女の中にいる時ほど、締め付けるわけでは無い。襞も存在しないそれは、ただ柔らかくモノを包んで愛撫する、すべすべしたカタマリに過ぎない。
 しかし、挟み込みながら歪む白い肉と、かすかに頬を赤らめてホークを見上げてくる、少女の視線。
 とんでもなく淫靡な光景が、実感する以上の快感をもたらすのである。

「どう? どうッスか!? 気持ちイイッスか?」

 想像以上に自分が感じてしまいつつ、ミカは問う。やせ我慢ながらも余裕の笑み。しかし、せっせと行う上下運動の所為ばかりでは無く吹き出てくる汗が、彼女の内心を如実に物語る。
 乳房自体は性感帯としてもそれほど快感をもたらす事は無いものの、男が感じている様子を見れば、その快楽は倍加する。その辺り、あまり男とは変わらないのである。
 しかし、実際に射精をしている側と、愛撫を加える側の疲労は違う。ミカの狙いは、そこであった。狡猾である。頭悪いくせに。

「ぐ……うぅぅぅぅぅっ!」

 ホークが呻いた。陥落が近い事を知ったミカは、上下運動を乳房のみの動きにし、大きく口を開けて亀頭を飲み込む。全部を口に入れるのは、能動的にはつらいから、一部に唇を被せて舌先で出っ張りをくすぐるのである。
 これは効いた。

「うおおおおおおっっ!!」

 たちまちホークの射精バロメーターはレッドゾーンに突入し、ミカが尿道口を口に含んだ瞬間、狙い済ましたかのように射精が始まる。

「ぶふぁああっ!!」

 両手で乳房を締め付けていたミカは、不意を突かれて声を上げてしまう。途端に、咽喉部まで飛んだ精液がミカの気管に入った。
 これはやばい。
 思わず体を離し、激しく咳き込むミカ。しかし、ホークは少女の頭を上から抑え、最後の一滴まで彼女の口腔に注ぎ込んでいく。尋常な量では無い。
 ほとんど窒息しつつ、なんとかミカは粘っこいマグマを嚥下した。
 開放され、ミカは思う限りむせる。
 食道から侵入した精汁は、胃腔に落ち込み確かな重量感をミカに感じさせる。

「ドすげえ量……」

 涙目で口を拭いつつ、ミカは呟いた。
 一瞬ザンギエフ様以上かも、などと考えてしまい、慌ててぶんぶんと頭を振る。
 一方でホークは、二度の射精に体力を消耗している。ミカは畳み掛けるべき時を悟った。

「今しかないッス!」

 巨人の体力回復を待っていては、自分のスタミナがおぼつかない。
 立ち上がったミカは、思ったよりも自分の股間が濡れそぼっている事に気付き、驚いた。
 ホークが後少し遅漏だったら、イッてしまっていたかもしれない。
 攻めなきゃヤバイ。そういう相手だと言う事だ。
 残念なのは、プロレスで仕留められない事だが、こんな巨人をぶん投げるのはミカ憧れのザンギエフ様でもなければ無理であろう。
 ミカはホークの首に齧り付き、天を向いて未だ射精を続けているモノに、当たりをつける。

「しかし……マジででかいッスね……」

 大地に体を投げ出し、座った姿勢でいるというのに、立ちあがったミカとあまり背丈が変わらないのである。
 股間の水着をずらして、照準を合わせるも、その大きさを飲み込む自信は無い。
 と、ミカは巨人の裸の胸が、規則的な呼吸をしているのに気付いた。
 ……まさか、と、巨人の目を見る。
 光があった。巨人は、ミカが思索を行っている間も、体力の回復に専念していたのである。

「あっ!」

 ホークの体が、浮かび上がった。巨大な手のひらが少女の脇腹を掴み、持ち上げる。
 宙に浮いた瞬間、ミカは己の不利を悟った。

「これじゃ、相手の思うままッスぅ!!」

 全く、その通りになった。
 ずらした水着が戻る間もなく、ホークは少女に向けて、股間のモノを叩き付けていたのである。

「きゃひぃぃぃぃ!!」

 唯一の誤算は、あるべき女の亀裂に向かう矛先が、濡れすぎた肌を滑ってあらぬ窄まりに打ち込まれたことであろう。
 ミカの甲高い悲鳴が響く。
 本来、男を受け入れるようにはできていない器官に、何の心の準備もなくモノを叩き込まれたのだからたまらない。しかも、それは標準サイズが小指に思えるような超弩級の代物なのである。

「だめだめだめぇぇぇ!! あたし、こわれるってば!! 死んじゃうってばぁぁぁ!!!」

 潜り込もうとする亀頭に、悲鳴をあげられたのはこれが最後。
 ズンッと半ばまで捻じ込まれた瞬間、ミカの喉は声を上げる事をボイコットした。
 驚愕したのはホークも同様である。突如、想像を絶する狭さの、激しい締め付けを行う器官に己の分身が飲み込まれたのである。

「ぐぅおおおおおおおおっっっ!!」

 巨人は、それを引き千切らんばかりの熱烈な抱擁を行う肉に包まれ、咆哮した。
 つるつるした内壁だが、今は複雑に捩れ、ホークのモノを強烈にホールドして離さない。
 抜き取ろうと、ミカの腰を掴んで引き剥がそうとするが、俗に言う駅弁ファックの姿勢では深くアナルの底まで結合した姿勢はなかなか解除できない。
 逆に、圧迫感にもがくミカの腰の動きが、更に深く飲み込んでいく。

「うっ……か……はひぃ………!」

 幼さの残る顔立ちが眉を顰め、歯を食いしばる。
 完全にオーバーサイズの凶器を飲み込んで、なおミカの肛門はひくひくと物欲しげに蠕動するのである。
 鍛えぬかれた筋肉ゆえか、思いの他に柔軟なそれは、裂ける事もない。
 ずるるッ……
 引き抜こうとするホークの動きと、
 ずんっ!
 ミカの自重で滑り落ちる動作が、自然とストロークの大きなピストン運動に変わっていく。
 多量に分泌された先走りが潤滑液になり、いつしか二人は、誤った器官ながらも快楽を求めて腰をぶつけ合うのである。

「ひぃっ……! ひぃぃ……! ひぁはぁ……!」

 自らホークの肩に手を回しつつ、積極的に豊かな臀部を揺すってミカは喘いだ。

 ……こんな、こんなにお尻の穴って、気持ちよかったッスか……!! だめ、あたし、イッちゃうッスぅぅぅ!

「あひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 汗ばんだホークの胸に、己の豊かな胸元を押し付けながら、ミカが仰け反った。
 引き締まった巨大な胴回りを、鍛えぬかれた脚が挟みこんでいる。
 肛門の締まりが強まった。
 ホークは獣のような唸り声を上げると、少女が絶頂を迎えているにもかかわらず、一層激しい前後運動を開始する。

「こっ……こわっ……! 壊れ……! こわっ、れ、るぅぅぅ!!」

 泣き声じみた苦鳴を漏らしつつ、ミカはより強く、ホークの首を抱きしめた。
 立て続けに、達する。
 ミカの背中が痙攣する。
 喉を見せて、少女は言葉にならない叫び声を上げつづけた。
 ホークは無言。ただ、ミカの菊門を犯すことに集中する。小さな器官が寛げられ、隙間から多量の汁を溢れさせる。
 確実に、最大の射精感がやってきている。
 ホークはそれを敏感に感じ取っていた。だからこそ、少女を攻め立てる手を休めないのである。

「うきゅうぅぅぅぅぅぅぅんんんッッッ!!!」

 ミカが、滂沱と涙を零しながら体中を震わせた。
 彼女の女は、もはや洪水を超えて、密着したホークの腹をも粘液の海に沈めている。
 ぎゅっと目を閉じ、ホークの首筋に爪を立て、がくがくと頭を振りながら、昇り詰めていく。
 最大の絶頂へ。
 そして一瞬早く、ホークの中の堤防が決壊した。
 腸内に感じる熱量の高まりを、薄れ行く意識の隅でミカが感じたとき。
 ホークの最大量の射精が始まった。

「おおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 一瞬の内に直腸が埋め尽くされ、白い、ゾル状の熱量がミカの内臓を駆け上がってくる。

「わああああああああああああああっっっ!!」

 ミカは、達した。
 脳内がスパークし、視界が真っ白に染まる。
 体中を満たし尽くすように精液が送り込まれ、少女の腹部が不自然に膨らんでいく。
 下品な音を立ててモノが引っこ抜かれると、ぽっかりと口を開いたまま閉じなくなってしまった菊口が、真っ白な粘っこい泡を吐き出した。
 しばしあって、怒涛の勢いで精汁の滝が流れ落ちる。速度はゆっくりと、しかし、いつまでも止まらない。
 ホークは額から滴り落ちる多量の汗を軽く拭いつつ、抱きかかえた少女を見やった。
 彼女の意識は、既になかった。
 しかし、実に幸せそうな顔が、すやすやと寝息を立てている…………




 YOU LOSE!!



 目覚めた少女は、掛けられていた毛布を抱きながら、照れ笑い。

「負けちゃったッス」

 悔しさはなかった。
 全力で戦って、負けた。
 自分の実力が足りなかったのだ。

「着眼点は良かった。女性は、男よりも長期の性交に耐えられるようにできているからだ。しかし、ペース配分に難があったな」

 優しい瞳で見下ろすホーク。だが、この人相手の場合、ペース配分とか関係ないんじゃないかな、と思うミカである。
 やがて、朝日が昇ると別れの時だ。
 であった頃と寸分変わらぬ格好になったミカは、朝日の前でペコリ、ホークにお辞儀をした。

「勉強になったッス! また、いつか。あたし、今よりもずっとずーっと強くなってやってくるッス! ホークさんに挑戦するッス!」

「楽しみにしているぞ。君も、あの男に会えるといいな」

 頬を赤らめて、力いっぱいミカは肯いた。
 それで終わり。
 少女は地平線の彼方に去って行く。
 一人残った巨人は、頭上にそびえる岩場を、轟然と見つめた。

「これで、私とお前の二人きりだ。いるのだろう?」

 と、呼びかけが終わるや否や、赤いシルエットが朝日に浮かび上がった。
 軍服に似たボディスーツに身を包む、均整の取れた体つきの男。
 その男は、宙に浮いていた。

「なかなかの座興であったぞ。あの娘、良い素材やも知れぬな」

 笑みを含んだ声には、些かの緊張もない。対するホークは、ミカには微塵も見せなかった敵意を顕に身構えた。
 瞬間、ホークの姿が消えた。いや、凄まじい勢いで飛び上がったのである。
 必殺の、一撃。ミカにはなったものとは、込められた気迫が桁違いの、正真正銘の必殺技。
 ……を、男は自ら落下した、足の裏で押しとめた。
 低く、呟く。

「サイコ・プレッシャー!」

「ぬぅおおおお!!」

 ホークが落下し、大地に激突。もうもうと砂煙が上がる。
 悠然と男が舞い降りる。
 軍帽の庇の下から覗く眼光は、実際に輝きを放って、青白い。

「ベガァァァァァッ!!!」

 男の名を叫ぶ、ホーク。
 無傷の巨体が立ち上がり、誇張でなく、大地は鳴動した。



 魔人と、巨人。
 人知を超えた戦いが始まったのである。


おわり。          






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