地球帰還作戦において、その中核を占める軍事組織、「ディアナ・カウンター」は民軍である。
 本来、月の軍事を司る「ギム・ギンガナム艦隊」は、大将ギム・ギンガナムを冷凍刑にて拘束され、千年もの間演習を続けるだけの存在となっている。
 民軍と軍との境界は曖昧である。
 しかし、ディアナ・カウンターの構成員は須らく月面都市の市民であり、彼等のモラルはディアナ・ソレルと言う偶像……アイドルによって保たれているのである。



 そして、地球へと向かう先遣部隊たちの、特に選りすぐられた精鋭達が、女王の間に集っている。
 真にディアナを敬愛するが故に、彼等はここに居る権利を得た。
 むっと鼻腔を突く、臭気。
 本来ディアナがおわすこの間は、空気中に散布されたナノマシンによって清浄に保たれている。いかな毒素を孕むガスも悪臭もたちどころに分解され、女王たるディアナその人に危害を加えることは無い。
 しかし。
 今この瞬間、ナノマシンは意図的に臭気の分解を停止していた。
 故に臭い立つのである。
 発情した、牡と、牝の香が。
 部屋を埋め尽くすように半裸の男たちが立ち、この間の中央に在る玉座に寄り添う人影めがけ、強い欲望を孕んだ視線を向け放っている。
「へ……陛下ッ……!! うぅッ!!!」
   叫ぶなり、男の一人が強く握り締めた己自身から白濁した欲望を放つ。
 宙を飛び、アーチを描いた精汁が降り注ぐ。
 撃ち出される粘液の出所は一箇所だけでは無い。玉座を半円状に囲んだ男たちが、強く扱きたてた先から黄白色のシャワーを吐き出すのである。
 着弾地点はただ一箇所。
 男たちの眼下に晒された、純白の双丘である。
 染み一つ無く、才覚ある職人か焼き上げた白磁の如き艶やかさを持つ肌。
「ふふっ……」
 蒼いリップが引かれた唇が、笑みを形作る。
 愉悦の笑みだ。
 己の体が汚される事が、何よりも心地良い。そんな被虐的な歓びを湛えた笑みである。
「もっと……もっと、おかけなさい」  磨き上げられた玉を思わせる美貌が、そこに在った。
 月の女王、ディアナ・ソレル。
 月世界に君臨する千年女王、その人である。
 ナノマシンによって保たれるその完全な肉体は、彫刻的でありながらも肉感に溢れ、男たちの欲望を否応なく刺激する。
「遠慮する事は無いのです。あなた達は、これから地球に帰還し、六倍の重力の元で過ごさねばならないのです。これは、わたしからの」
 餞別。
「うあぁぁっ、ディ……ディアナさまァァッ!!!」  また一人が、熱い迸りを放つ。欲望の権化たるその熱量は、全ての月の民が敬愛してやまぬディアナソレルの発達した臀部。それを容赦なく汚す。
「それだけなのですか? ほら、もっとおかけなさい! 皆の欲望を、このわたくしに!!」  ディアナの身体は薄紅色に染まり、浴びせられた臣下の精液が玉体を興奮に震わせる。
「なにをしているのですか! もっと、もっと汚すのです! 殿方の迸りで、皆の欲望でわたくしを……!!」
 高まりを押さえきれぬ声音は、甲高く男たちの耳朶を打つ。
 再び、男たちは己のものを扱きたてた。そこかしこで呻き声が上がる。
 未だ、誰一人として女王に触れてはいない。しかしディアナの女性は濡れそぼり、尋常では無い量の蜜を滴らせていた。
 桃色の肉唇がひくひくとわななく。
 女王は求めているのだ。更なる汚辱を。
「おおおおおおおおおおおっっっっっ!!!」
 限界まで高まった男たちの熱気で、女王の間に満ちる臭気が更に濃度を増す。
 男たちが次々に、握り締めた己を女王に向けて突き出した。
 放たれる、精液。並みの量では無い。この間に詰めた男たち全てが放つ精汁である。粘液の糸と糸が複雑怪奇に絡み合い、蜘蛛の巣にも似た形を象る。
 実感できる質量すら伴った欲望の熱量は、文字通りディアナの尻に叩き付けられた。
 液体が発するスパンキングの音。
「ああァァァァァァァァァァッッッ!!」
 その瞬間、ディアナは達していた。
 一条の飛沫が、女王の秘唇を割り裂いて放たれた。
 一切の愛撫を受けることなく、ただ大量の精液を受けたことで、ディアナの女は快楽の頂きに押し上げられたのである。
 喉を震わせてオーガズムの咆哮が響いた。
 

 硬く閉ざされた扉の向こうで、深紅のサングラスの男が軽く溜め息をついた。
「ディアナ様も、お戯れが過ぎる」
 呟きながら、窓の外、運河底辺から覗ける月世界の外界を見やった。
 

 月の夜は、まだ明けない。





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