『外道神父アルベルト・無法伝4』

 無線機の電源を入れ、ことっとテーブルに置く。

「聞こえますか?」

 ざざっとノイズ。暫しの沈黙の後、

『貴様が私の部隊の一名を殺してくれたクソ野郎か?』

 アルベルトは唇を吊り上げると、脚を組み、

「ええ、そうです。話にもならない腕でしたが」

 爽やかとすらも言える笑顔で答える。

 舌打ちが聞こえ、

『だがこちらの目的は概ね達成されている。残念だったな』

「ほう。そちらの部隊では、本来のターゲット以外を拉致しても達成、と言うんですか?これは驚きだ」

『・・・・何が言いたい?』

 アルベルトは黙したまま、くくっと笑いを堪える。

『私達が無能だとでも?』

 肩を竦め、

「そうとも言える不手際の数々。楽しませて貰いました」

『あまり調子に乗るなよ・・・・お前の連れは、どうなるか分からない状況だぞ?』

 アルベルトがちらっと視線を移すと、まるで目で殺さんばかりに睨む紅花の姿。

 片手で制し、

「その話でした。一つ提案があるんですが・・・・勝負、しませんか?」

 数秒。

『どういう意味かな?』

「そちらに汚名返上の機会を与えようかと」

 アルベルトは目を細め、真面目に会話を始める。

『はっ・・・バカか?貴様・・・下らん。どんな男かと応えたが、時間の無駄だったな』

「まぁ、所詮落ちぶれた連中など、保身で精一杯でしょうからねぇ」

 切られかける無線機に呟かれた言葉に、未だ通信は繋がったままになる。

「まるでなってない戦闘・・・・あんな戦力と頭数を揃えて、所詮は少女一人だけしか拉致出来ない無能ぶり・・・・正直、私もそちらと真面目に戦う気などない」

『貴様っ―』

「ですが・・・拉致されてしまった少女を救わなければ、今度は私の命が危ない。どうでしょう?同じ保身を考える者同士、結果は見えていますが・・・・勝負しませんか?」

 紅花の顔色が変わる。当たり前だ。アルベルトは、このいけ好かない男は、あろうことか保身だけで姉の身柄の取引をしているのだ。

 今すぐにでもここで怒鳴り散らしたいが、しかし今取引そのものを出来るのは、彼以外ない。

『・・・・勝てるとでも思ってるのか?』

「勝負の場所も、時間もそちらに任せます。それでも、私の勝ちは微塵も揺るがない」

『上等だ。イイだろう・・・身柄はまだ拘束している。今から6時間後。場所は追って連絡する』

 ぶつり、と一方的に回線は途絶えた。

 

 

「さて、これで首の皮一枚希望が繋がりましたね」

 笑って言うアルベルトに、紅花は無言で珈琲を飲む。

 肩を竦めるアルベルトを視線だけで見つつ、ウィナイが俯きがちに口を開く。

「その・・・すまん。妹の為に・・・・君の姉さんが・・・」

「別に貴方方のせいではありませんわ」

 カップを置いて、

「そちらの神父さんの責任ですからっ」

 怒り、否憎しみすら篭もってそうな声。

 何も言えずに黙り込むウィナイとシンチャイ。

「貴方達は隣に取った部屋で休んだらどうです?疲れたでしょうし、こうなると・・・・もう素人の介入する話ではないですから」

 アルベルトの言葉に曖昧に頷きつつも、二人は部屋を出る。シンチャイは、申し訳ありません、と告げて頭を下げていった。

「いやぁ、罪悪感に苦しんでるみたいですねぇ」

「貴方も苦しんだらどうですか?」

 紅花の言葉に振り向き、苦笑する。

「これでも私も―」

「黙って下さい。苦しんでる、なんて言ったら、許しませんよ・・・姉さんを拉致されるなんて、それでも護衛ですか?」

 畳み掛ける様な口調に、アルベルトは頬を掻き、

「いや、全くごもっともで」

 そう言って、視線を逸らして煙草に火を点ける。

 煙草の匂いが漂い、ふぅっと紫煙を吐く。

 今いる場所は、あの安ホテルではなく、紅花が急遽手配した高級ホテルの一室。

 絨毯など毛足が長くふかふかとしているし、清潔さやサービスでも一流だ。無残な姿になったあの場所から抜け出し、ここに来るまでに一時間。

 そして、白花を救出する、という話になって、アルベルトがまずしたのが、先程の通信だ。

 どうやらこの男は本気で一人で戦う気らしい。それも、絶対的な勝利の自信を抱いて。

 確かに、この男なら・・・・とは思う。二時間弱前の騒動も、この男は易々と片付けた。

 だが、結果として、白花は奪われた。

 結果が全てとか、過程がどうとかそんな話ではないが、姉を奪われるなどあってはならない事だ。その為の護衛ではないのか?

 そう思うと、軽く理性の沸点を超えてしまいそうになる。

 それに・・・・それに―

「一つ」

 紅花の呟きに、首を傾げて振り返るアルベルト。

「さっきの言葉、本気ですか?」

 その一言で、意味は通じる筈だ。

 さっきの、拉致されてしまった少女を救わなければ今度は私の命が危ない、同じ保身を考える者同士、という言葉が気に入らない。この男は、あれだけ自分を想ってくれている姉を、保身だけで救出する、という意味の言葉を吐いたのだ。

 それは、仕方なく認めていた紅花への裏切りで、盲目的なまでに彼を愛する白花への侮辱だ。

 アルベルトは、煙草を燻らせ、再び窓の方へ向くと、

「さて、どうでしょうねぇ?」

 がたんっと椅子を蹴倒す勢いで立ち上がり、紅花は無言で部屋を出て行く。

 ばんっと乱暴にドアを閉め、唇を噛む。

 だから、気に入らないのだ。

 あの程度の度量しか、あの程度の情しか持っていない男が、姉の愛情の対象だなんて。主人であるなんて・・・性質の悪い冗談としか、思えない。

 

 

「くくっ・・・くっ、ははっ・・・・」

 紅花が去った部屋の中で、アルベルトは堪え切れない笑みを漏らす。

 紫煙を吐き出して、窓の外の景色を眺めやる。

「やれやれ・・・・なかなかに大変な事になったもんですねぇ」

 そう呟き、携帯を取り出す。

 アドレスから相手を探し出し通話を押す。コール音を数回。

『はいはーい♪僕ですよー』

 真っ先に飛び出したのは元気過ぎる位に元気な声。アルベルトは、何があっても変わる事はないだろう爛漫さの少女に苦笑し、

「元気みたいですね、綾さん」

『はい!僕は元気です。アルっちも元気ですかー?』

 三枝綾。それが相手の少女の名である。唯一、アルっちなどという名で自分を呼ぶ少女は、ひたすら能天気な応答を返す。が、

「元気なんですが、少々厄介事に巻き込まれまして」

『あはは、アルっちはきっと自分から首突っ込んだです』

 実に鋭い。普通に会話しているだけだが、最早少女はアルベルトの用件の中身を大凡把握している。

『それじゃ、今日要るのは僕の体じゃないですねー。何が要るですか?』

「そうですね。弾の予備を多めに、後は手榴弾でもあれば面白いですね。それと、情報ですか」

 かりかり、とメモをする音がする。

 この少女、普段は能天気で単細胞な子供に見えるが、祖父の密輸組織のメンバーとしてきっちりと仕事もこなす。見ていて危うい所があるが、根本はしっかりしているらしい。

『えっとー、弾はいつものでイイですか〜?』

「ええ、お願いします」

『了解ですよ〜♪一時間です』

 そう言って少女は通話を切った。

 アルベルトは、懐に携帯を戻して紫煙を吐く。

「さて、愛しの白花さんはどうしてますかねぇ・・・」

 

 

「おら、しっかり咥えろ!」

 白花の口に無理矢理にペニスを捻じ込み、セックス同様の腰使いで口腔を犯す。

「んぐぅううっ、んっ・・・んぶぅうう!」

 両腕は背後で頑丈な鎖で拘束されている。脚は他の男達に捕まれ、身動きなど取れる筈もない。噛み切ろうと思えば出来るだろうが、その後の報復を思えば出来ない。

 決して、白花は報復を恐れている訳ではない。全てはアルベルトだった。

 もし消えない傷でも負い、彼に捨てられる、愛情の対象から外される事を一瞬でも考えてしまうと、躊躇いは生まれ、増殖する。

 今や、白花の行動の決定権はアルベルトが握っているとしても過言ではないかも知れない。

「んふぅうううううううう!!んっ、ふぐ・・・んんっ!!」

 だが、そのアルベルトの所有物たる自分の体が犯されている現実に、白花は耐え切れぬ悔しさを覚える。

「おぁあああ!イイぜ、このガキ。こんなちっこい体の癖して、美味そうにチンポ咥え込みやがって!」

 下卑た野次と、胎内を貫くペニス。ぐちゅっぐちゅっと愛液が飛び散り、粘ついた音を立てる。

 感じたくなどないのに、アルベルトに犯され続け、開発され続けた体は自然と快楽をくみ上げて脳を凌辱する。

「くくっ、初物じゃねえのは残念だったが、こっちも使えるとなりゃ話は別だよな」

 そう言って、三人目の男の指がアヌスを撫でる。

 びくんっと体が震え、勝手に刺激を求めてひくつく。まるで、牡を欲しがって鳴く牝犬だ。そうやって、媚びるべき対象ではないのに、体が求める事が歯痒い。

「んぅううううううううううう!!」

 ぬぷり、とアヌスに侵入する指に抗議の声を上げ、直後、口内に生臭い精液がブチ撒けられる。

 ぶびゅっ!びゅぶびゅるるるるるる!!ぶびゅっ!

「んぐっ!?んぐぅ、おぶっ・・・げほっ!」

 精液を吐き出した途端、右の頬を平手打ちされる。

「ぶっ殺すぞガキ!」

 既に衣服は引き裂かれ、一時間近く四人の男に犯されている。

 一人はカメラ役、後の三人が犯す役。彼らは交代を繰り返して、休ませず延々と。

 それでも、白花は懸命に心だけは強く持つ。

 どんなに汚されようと、必ずアルベルトは助けてくれる。それだけを信じて。それだけは、この状況でも絶対だと信じ続けられる物だ。

「くっ!うぉ、すげぇ!!」

 びゅびゅぅううううううううううう!!びゅるっ、ぶびゅぶっ!ぶびゅっ!!

「ひっ!くっ、やめ、中に、出さないでっ!」

 胎内に溢れる精液の感触に涙がこみ上げそうになるが我慢する。こんな連中に言い様に犯されて、胎内に射精され、そればかりか泣くなんて、そんな情けない真似は出来なかった。

「ふぅ、んじゃ・・・今度はこっちの中にしますか」

 そう言うと、今度は指で弄くっていたアヌスへと狙いを定める。

「や、やめっ・・・だめっ!お尻は、お尻は嫌!」

 言い募るが、そんな事を聞く連中ならもう何回も膣内射精などされないだろう。

 ずぶっと太いペニスがアヌスを裂き、直腸を押し拡げて少女の排泄器官を犯していく。

「うぁ、ああぁああああ、ひっ!ぐぅ、苦し・・・い」

 華奢な白花の体は、皺をすっかり伸び切らせてアヌスにペニスを飲み込んでいく。

「二本挿し、だな!」

「っ!?」

 口腔を犯した男の声に、アヌスに意識を持っていかれていた白花は息を呑み、次の瞬間悲鳴を上げる。

「ひぁあああああああああああああああああああっ!あっ、あああがっ・・・ダメ、裂ける・・・・っ」

 薄く、腹が盛り上がる。

 いつもなら、こうやってアルベルトのペニスで腹が浮き上がり、至福と絶頂を思う存分味わえるのに、それを今の白花の理性は拒もうとする。

 結果、襲うのは激しい苦悶だけ。

「ひぅっ!んんぐっ・・・はっ・・・はぁ、ひぎぃいいいいいいいいいいい!」

 二本のペニスが蠢くと、内臓を掻き回されている様な感触を覚える。普段なら、そんな事でも素直によがれるのだろうが、理性が削られていくのを防ごうと躍起になって、更に精神は磨り減っていく。

「はっ!はひっ・・・んぐぅ!」

 残った男のペニスが薄い胸に擦り付けられ、こびり付いた精液が塗り広げられる。気持ち悪い。吐き気がする。この男達から解放されたい。この手さえ動けば。

(アル様・・・・)

 心の中で愛しい主人の顔や声を思い出しながら、そっと呼ぶ。

 それが、唯一白花の防壁とも呼べた。

 

 

「ローティスさん?」

 呼ばれ、アルベルトは顔を上げた。

 立っていたのは、褐色の肌の少年。

「俺、綾に言われて当面の配達人」

「よろしく」

 会釈し握手。

 適当に握手した少年は、アルベルトの前に座って、箱を取り出す。

「ほい、品物」

 簡潔な説明に頷き、それを手元に寄せる。

「んでぇ、情報なんだけど」

「ええ、お願いします」

「の前に金」

 ひらひらと手を振る少年に苦笑し、厚く膨らんだ封筒を載せる。

「毎度」

 お互い、確認はしていない。

 が、そこは信用なしでは商売相手にすらなれない世界屈指の密輸組織。不要だった。

「表に出ましょう。歩きながら聞きたい」

「了解」

 アルベルトと少年は立ち上がり、ホテルを後にする。

 

 

「連絡が来ました」

 紅花にそう告げられたのは、最初の交渉から三時間は過ぎた頃だった。

 アルベルトの部屋に行くと、既に交渉の続きが始まっている。

『―そこで、待っている。一人で来い。殺して晒して、間抜けな人生を悔やませてやる』

「それは有難い。常々、自分の生き方を顧みる機会が欲しかったんです」

 アルベルトの冗句に舌打ちを返すと、

『じゃあ、一時間後』

 ぶつっと回線は切れた。

「まさか、本当に一人で乗り込む気?」

「そういう条件ですから」

 紅花に即答し、補充した弾を法衣のあちこちに忍ばせる。

「数時間前よりも大勢が待っているかも知れないのよ?」

「問題ありません。あの程度の兵なら、何人だろうが」

 二挺の拳銃を点検し、一つ頷くと立ち上がる。

 腕組みし、ドアに凭れた紅花に向き合う。

「安心して下さい。白花さんは命に代えても」

「心にもない事、言わないで」

 歩み寄ってくるアルベルトから、思わず視線を逸らす。

 この男には、恐怖心はないのか?

 確かに勝算はあるだろう。

 だが、それでも恐怖や緊張を抱くのが人だ。

「じゃあ、行ってきますよ」

 ぽんっと頭を撫でて、アルベルトは出て行く。

 何となく、撫でられた頭に触れ、結論づける。

 あの男は人じゃないのだろう。恐怖も緊張もなく、躊躇いもなく、死地に迎えるのは人であってはならないと思う。

 アルベルトはエレベーターでロビーに降りると、先程の少年を探す。

「うっす」

 回転ドアの脇に凭れていた彼は、片手を挙げて言うと、すぐに表へ出て行く。

 その後について歩くと、少し歩道を歩いた路肩に、一台のバイクが停められていた。

「ほらよ、サービスレンタル」

「どうも。我侭言って申し訳ない」

 キーを受け取りながら苦笑するが、少年ははっと鼻を鳴らすだけだ。

「アンタにゃ、イイ仕事ばっか貰ってるらしいからな」

 ぽんぽんっと少年の肩を叩き、エンジンをかける。

 重々しい排気音が響き、巨大な鉄の獣が目を覚ます。

「さて、一仕事しますか」

 軽く呟き、アルベルトの駆るバイクは街を滑り出していった。

無法伝5



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